先日、慶應大学の准教授、中室牧子先生の講演会を聴きに行ってきました。
『「学力」の経済学』の著者として有名な先生ですね。
(最近マンガ版も出たそうです)
中室先生は、よくマスコミにも出演されているのでご存じの方も多いと思います。
先生の専門は教育経済学です。
国内外の多くの社会実験データを基に「教育政策の費用対効果」の研究などをされています。
つまり、中室先生の提唱する教育方法には、科学的根拠(エビデンス)があるということですね。
先生によれば、今の日本の教育政策は、政治家の主観や流行に流されて作られていて、この「科学的根拠」がないそうです。
また、教育本などでは「4人を東大医学部に入れた」のような特殊なケースほど注目を浴びるけれど、それは例外的なもので必ずしも他の人の参考になるとは限らないそうです。
中室先生は「日本の教育を科学的根拠に基づいたもの」にすることを提案されています。
それが、多くのデータによって裏付けされた「王道の努力」だからで、時間とお金には限りがある中ではできるだけ「報われやすい方法」を試みて欲しいそうです。
それでは、講演会で聴いた「科学的根拠に基づいた子どもの教育法」などについてご紹介します。
やるべきことを「習慣」にする
勉強や運動など、やるべきことを続けられると人生にとってプラスになる。
やるべきことを続ける秘訣は、「習慣になるまでやる」こと。
いったん習慣がついてしまえば、最初に始めた時よりも楽にそれが続けられる。
習慣になるまでには8週間~10週間かかると言われているので、その位までは意識的にがんばって続ける。
子どもの場合、習慣になるまで親がついていてやることが一番大事。
例えば勉強なら、子どもの勉強時間を管理し、そばについて勉強の正しいやり方を教えるなど。
親がどう勉強に関わったらよいかは、父と母、男児と女児の組み合わせによっても変わる。
母親の勉強への関わり方は「勉強する時間を決めて守らせる」のが良い。
父親の勉強への関わり方は「勉強をみてあげる」のが良い。特に男児に効果的。
女児は母親に勉強しろと言われると逆効果であるが、男児には少しだけ効果がある。
基本的には同性の親が身近なお手本(ロールモデル)になるので、同性の親がポイントになる。子どもの苦手科目はできれば同性の親が教えるといい。
<管理人コメント>
子は親の背中を見て育つと言いますが、同性の親がより重要だったのですね。
先生によれば、
・父親が喫煙していると息子も喫煙するようになる
・母親が仕事を持っていると娘も結婚後仕事を続ける
確率が高いというデータもあるようです。
ご褒美を上手く活用する
ご褒美(インセンティブ)は人間が何かをする際の大きな動機となる。
子どもの教育にも活用し、子どもにやらせたいことはご褒美で上手く誘導すると良い。
<ご褒美を与える時に気を付けること>
・人間には、目の前の利益は将来の利益よりも大きく見える傾向がある(双曲割引)
なので、ご褒美を効果的に与えるには、何か望ましいことをしたらすぐご褒美が手に入るようにするのが大事(目の前のニンジン作戦)
例えば、「勉強したらすぐにお小遣いをあげる」など
また、先の結果ではなく、今できる小さな行動1つ1つにご褒美を与えるのが良い
例:「テストで90点取れたら2000円」「今勉強したらクリスマスプレゼントに〇〇を買ってあげる」というご褒美を設定するのではなく、「宿題をやったら200円」「本を1冊読んだら200円」などとこまめにご褒美を与える
・ご褒美は必ずしもお金である必要はない
大人を動かす一番の動機はお金だが、お金の価値が分からない小さな子どもならかっこいい記念品などにしてもいい。小学生には400円のお金よりも200円相当のトロフィーの方がご褒美として効果があったという実験結果もある。
・目標を達成するための「正しいやり方」をきちんと教える
正しいやり方を教えないと、たとえご褒美でやる気が起こっても成果を出せない。
なぜ成果を出せなかったのかにも気付けない。
ある実験で「勉強のやり方を具体的には教わらず、テストで良い点を取ったらお金をあげる」とだけ言われた子どもは結果を出せなかった。そして、結果を出せなかった理由を聞かれても「問題をしっかり読まなかったから」などと的外れなことを言っていたそうです。
・ご褒美作戦は常にパフォーマンスを上げるわけではない
単純作業をする時にはご褒美をもらえるとパフォーマンスが上がるが、良いアイデアなどを考える時には、ご褒美を与えることで逆にパフォーマンスが下がることがある
中室先生は毎年授業で「報酬ありグループ」と「報酬なしグループ」に分けた学生に、自分の出身校を良くする案を考えさせ、投票で勝敗をつけさせている。
その結果は、毎回「報酬なしグループ」の勝ち。
報酬ありグループからは「小人数学級」「アクティブラーニング」「教員の労働時間削減」のような面白みがない意見が出るが、報酬なしグループからは「シーズンスポーツの部活」「先生に生徒が教える日を作る」「恋愛の授業をする」など面白い意見が出てきた。
人間は報酬があると視野が狭くなったり、冒険できなくなったりしてしまうのかもしれない。
※このように報酬がない方がクリエイティブな作業のパフォーマンスが上がるというのは、先進国だけではなく発展途上国でも同じ
・ずっとご褒美を与え続けるのは難しいので、習慣になるまで「呼び水」として使う。
ご褒美をやめたら勉強もやめてしまうのでは?と心配する親御さんが多いが、習慣になっていれば、続けやすくなっているので続く可能性が高い。
アメリカで大学生を対象に「スポーツクラブに行くとお金がもらえる」という実験をやったら、お金がもらえなくなっても通い続けた人が多かったというデータもある。
幼児教育に力を入れる
日本では、幼児期にお金をかけてもあまり意味がなく、大きくなってから(例えば大学受験の時などに)教育費をかけるのが効果的だと思っている家庭が多い。
しかし、初期の知識や技能がしっかりしていれば、その後の学習が効率的になる(シナジー効果)
そのため、実は幼児期にお金をかけた方が費用対効果は高い、ということになる。
<管理人コメント>
個人的に、この話にはあまり納得できませんでした。アメリカの幼稚園で貧困層に行ったプログラム(ペリー幼稚園プログラム)を根拠にしているようですが、現代日本に当てはまるのか疑問です。
まあ確かに高3になってから教育に大金を使っても遅すぎる気はしますが、日本の家庭は幼少期からしつけをきちんとしていることが多いし、義務教育だけである程度学力の基礎はできるので、個人的にはそんなに早期の教育にこだわる必要はないと思います。(うちは早期教育していますが、それは単に教育が夫婦、特に夫の趣味なのでやっているだけなんです…)
また、「幼児教育にはお金をかけるけど、大きくなってからはお金をかけない家庭」ってあまりなさそうなので「大きくなってからよりも、幼児期に教育にお金をかけた方が費用対効果が高い」と言われても、結局は「幼児期にも」お金をかける家庭が増えるだけの気がします。
性格スキルを磨く
これまでは学力・IQのように数値として測れる能力ばかり注目されてきたが、今ではそういった数値として測れないスキル(非認知能力)が良い人生を歩むために重要と言われている。
非認知能力は学力に影響を与えると言われているが、学力が高いからといって認知能力が高くなるわけではない。つまり、順番としてはまず非認知能力を鍛えるのがいい。
非認知能力の中でも特に重要と思われるのが「高い自制心」と「やり抜く力(GRIT)」
自制心について
4歳児にマシュマロテスト(マシュマロを食べるのをしばらく我慢できたら2個目をあげる)をやった結果、マシュマロを我慢できるくらい幼少期から高い自制心を持っていた子どもは、大人になった時により健康的で、経済的にも豊かで、犯罪などへの関与は低いというデータがある。
きょうだいのように家庭環境は同じでも、自制心が高い方が良い人生を送っている。
やり抜く力(GRIT)について
やり抜く力(GRIT)は簡単な質問に答えることで測れる(グリット・スケール)
上場企業の社長、オリンピック選手、売れているお笑い芸人などはこれが高い人が多い。
GRITとIQに相関関係はない。
「勉強ができても社会で活躍できるわけではない」といわれるのは、これが関係していると思われる。
やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける
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中室先生の本ではありませんが、GRITについて書かれています。
まとめ
今回の記事は講演内容に沿ったものではなく、私が面白いと思った内容を自分の言葉と解釈でまとめています。そのため、中室先生の考えと多少ズレてしまっている部分があるかもしれません。
また、根拠となる社会実験内容の詳細など専門的なことはかなり省いています。
そのため色々とツッコミどころもあるかもしれません。
気になった方はぜひご自分で先生の著書を読んだり、海外の研究を調べたりしてみてください。
<ご注意>
上記の中室先生の話には確かに科学的根拠がありますが
・根拠としている社会実験のデータや解釈が実は間違っていた
・実験結果が、将来別の実験によって覆される
・被験者の属性が自分の子と全然違って参考にならない
・多くの人に当てはまるけれど、自分の子は例外である
という可能性はあります。あくまで参考程度にどうぞ。
コメント
『「学力」の経済学』も読んでみたい本です。
相変わらず自分の読書が進んでいません。
2017年1/21の週刊ダイヤモンド『天才・奇人のつくり方』という雑誌で、この著者が要点をまとめた記事を書いていました。
アメリカの貧困層で行われたプログラムのことも書いてありました。
私も同じような疑問を持ちました。
そのまま日本に当てはまるのかな?って。
日本の場合は経済的に余裕がない家庭でも小学校入学前にけっこう教育は受けていることが多いのではないかというイメージです。
何らかの事情で保育園や幼稚園に通ってなくても、自宅で絵本を読んでもらっているとか。
それに対してアメリカの貧困層だと、本当に何もしていない・放置しているみたいなことが多そう。
統計的なものは見ておらず、私のイメージなのですが。
>rinko様
学力の経済学、私も以前読んだことがありますがお薦めです。
さらっと読める本で、そんなに時間はかからなかったと思います。
もしお忙しいのであれば、漫画版でもいいかもしれません。
週刊ダイヤモンド『天才・奇人のつくり方』、面白そうですね!
バックナンバーがあったら取り寄せてみます。
アメリカの貧困層での昔の社会実験が日本に当てはまるか分からないという件、同じ考えで嬉しいです。
確かに、日本人家庭は余裕がなくても、図書館で絵本を借りて読んであげたりなどは普通にやっていますもんね。
教育番組もけっこう良質ですし。
学力の経済学読んでみますね!
『天才・奇人のつくり方』は中身よかったですよ~。
知らなかったこととかいろいろ載っていて、読みごたえがありました。
カナダ在住の大川翔さんについての特集もありましたし、小学校受験のことも載っていました。
そうそう、私も図書館のことがすぐにぱっと思い浮かべました。
アメリカの貧困層は図書館にすら行かないイメージです。勝手なイメージなのですが。